見えない真実 ~薬事法違反に問われた経営者の180日
【INDEX】
強制捜査の日
売ってはいけない商品
電 話
誠 意
ほぐれぬ糸
再 建
揺らぎ
逮捕状
否 認
縛られた自由
エピローグ~手紙
連載にあたり
薬事法違反としての摘発は
どの企業にでも起こりうる出来事
晴天の霹靂だったと吉田明男氏(仮名)はいう。「そのときは頭の中が真っ白になり、なぜそうなったのかまったくわかりませんでした」と述懐する。その思いは現在も同じで、問題となったのは広告であるのかパンフレットやチラシであるのか、またそれらのどの部分が薬事法に抵触していたのか、いまだに明らかにされていないという。
家宅捜査令状に記された「薬事法違反」だけがすべてであり、具体的な説明はその後の事情聴取や起訴段階においてもなかったと吉田氏は語る。
強制捜査から数カ月後、吉田氏は逮捕され、最終的には起訴されて罰金刑となるのだが、当然のように売り上げは激減し、倒産の危機に瀕したという。
今回の経験を通して教訓となったことを吉田氏に訊ねてみたが、「なにも得ることはできなかった」とのこと。そのいちばんの理由は、どこがどう薬事法違反であるのかが明確にされなかった点だ。
当時の資料を本紙の視点から精査してみると、パンフレット等の販促物の一部に薬事法に抵触すると思われる箇所がいくつかあったのは事実。その点については吉田氏も承知しており、すでに改善していることはいうまでもない。
しかしここで問題なのが吉田氏がいうように、「誤りは誤りとして正す。しかしその基準があいまいで、どう対処すればいいのかがわからない」ことで、市場にはたしかに吉田氏が制作した販促物よりも明らかに逸脱した表現・表示がまかり通っているのも事実だ。企業の責任といってしまえばそれまでであるが、しかし法の明確な適用基準が不明瞭であるため、吉田氏のように法の遵守を心がけてきたにもかかわらず、結局のところ薬事法違反に問われることもあり得るということだ。
吉田氏は一連の出来事に際し教訓はなかったとしているが、それでも業界としてはそこから学ばなければならないことがある。それは「いついかなるときでも、同様のことが自身に降りかかる可能性がある」ということ。そうならないためにも、関連法規に対するこれまで以上の遵守の姿勢が必要ではないだろうか。