見えない真実 ~薬事法違反に問われた経営者の180日

「見えない真実」連載終了にあたり
~主人公「吉田明男」氏に聞く

薬事法の本当の怖さを知る

 2008年3月15日発行号に連載をはじめた「見えない真実」が今号で最終回を迎えました。これまでの全20回にわたり、実際に薬事法違反で摘発された吉田明男氏(仮名)が経験した出来事を追いかけてきましたが、吉田氏は現在どのような思いでいるのか、そして一連の出来事を通してなにを学び、なにを得ることができたのか? 連載最終回にあたり、吉田明男氏ご本人にご登場いただいた。

──強制捜査から時間が経過しました。現在の心境は?
吉田 体の傷は時間が癒してくれます。しかし心の傷はそうはいきません。弱い人間と思われるかもしれませんが、受けた傷の大きさは容易には修復できそうにありません。

──それだけつらい経験だったということですね?
吉田 これまで自分がおこなってきたこと、正しいと思ってやってきたことがすべて否定されたということです。当然、健康食品を取り扱ううえで、薬事法や特定商取引法を守ってやってきました。しかし、それが否定された。しかも、どうしてなのか、なぜなのか、どこが悪かったのか、いまでも明らかにならないままです。

──特定商取引法は業務停止命令という企業にとって致命傷にもなりかねない指導があり、それに対して薬事法は罰金刑で済むという論理がありますが。
吉田 そういう見方もあると思います。しかし、薬事法の場合、企業の名前のみならず、個人の存在そのものが否定され、抹殺されてしまいます。社会的、道義的責任という言葉がありますが、それらをすべて負わなければならなくなるのです。たしかに罰金刑だけで済めばいいという考え方もあると思いますが、しかしそこまで行く過程において、経験した者にしかわからない茨の道が続いているのです。

──いま振り返り、コンプライアンスは徹底していたと思いますか?
吉田 すでに結果が出ていることです。つまり、徹底していなかったという判断を下されたわけです。連載にもありましたが、チラシやパンフレットの制作段階において、自治体の薬務局や担当部署に足繁く通い、また広告代理店などとも綿密な打ち合わせをおこないながら、「薬事に触れない」を大前提として事業に取り組んできました。しかしこうなってしまったのは、薬事法に関する明確な座標がないからなのです。あくまでも事業者の自己責任に最終判断が委ねられるということ。法律を守りたくても、どう守ればいいのかをだれも教えてくれない。それが現実なのです。

──強制捜査、逮捕と続きましたが、不条理を感じている?
吉田 ここでそれを論じることはできません。ただ、不条理ということでいえば、明らかに薬事法に抵触していると思われるチラシが広告が横行しているというのに、取り締まられていないという現実です。また、取り締まられたとしても、指導レベルで済む場合も多々あります。それなのに、どうしてだろういう思いはもっています。よくたとえられますが、スピード違反と同じですね。

──結果として、全面的に非を認めることになりましたが。
吉田 そうするしかないのです。ドラマのように怒声や罵声はもちろんありませんが、その圧力は経験した人間にしかわかり得ません。しかも、「敷かれたレール」があるのです。異論を唱えたり、徹底抗戦できたりすると思っているかもしれませんが、そんな考えはまずまちがいなく打ち砕かれると思います。

──ご自身の経験を通して、業界に伝えたいことは?
吉田 健康食品と薬事法、非常にデリケートな関係のなかでビジネスをおこなっているということを再認識すべきです。さきほどスピード違反といいましたが、それと同じように、いつ何時自分の身に降りかかってくるのかわからないのです。具体的な対処法はないでしょう。けれども健康食品業界に身を置くのであれば、常に意識と覚悟をもってコンプライアンスに取り組まなければならないということです。それが徒労になったとしても。

──一連の出来事を通して学んだこと、得たものは?
吉田 ……ありません。あるとすれば、薬事法の本当の怖さと、家族のありがたみだけです。

──ありがとうございました。

【聞き手:本紙編集長阿部和典】