担保権が設定されている不動産の共有分割請求
共有物分割請求の対象になっている不動産に抵当権などの担保権が設定されている事があります。
このような場合に共有物分割請求がされた場合にどのように処理されるかを見ていきます。
1.担保権が設定されている共有物の共同売却を行った場合
共有物に担保権が設定されている場合、第三者に共同売却する場合は、売却代金の中から抵当権などの担保権で担保されている債務の支払を行って、残った代金の中から共有者で分配を行います。
ですので、売却代金で債務全額の支払いをできない場合は共有物分割請求の意味がないことになります(そもそも債務全額の支払いができない状態で担保権者が担保権の抹消に応じるかという問題もあります)。
担保権がついたままで売却することは理論上は可能ですが、担保権付きの不動産を購入する人は非常に少なく、売れたとしてもかなり安い値段でないと売れないので現実的ではありません。
2.担保権が設定されている共有物について他の共有者に持分売却を行った場合
共有持分を他の共有者に買い取って貰う場合は、担保権がそのまま残っても特段の問題はありません。
ただ持分を買い取った側が担保権付きの債務の債務者でない場合は、債務の支払がされないと担保権者から競売申立がされて不動産を失う可能性があります。
3.担保権が設定されている共有物について他の共有者に持分売却を行う場合に担保されている債務額を差し引いて代償価格を算出すべきか
これは例えば不動産価格が2000万円、担保権で担保されている債務が1000万円、共有者2名が2分の1ずつの共有持分を持っている場合に共有者の1名が他の共有者に持分を買い取ってもらう場合の代金算出方法の問題です。
不動産価格が2000万円で担保されている債務が1000万円だから不動産の価値は1000万円しかなく、2分の1の持分価格は500万円になるから代償金は500万円になるという考えと担保されている債務を不動産価格から差し引くべきではないとして2分の1の持分価格は1000万円であるから代償金は1000万円になるという考えがあります。
この点について、全面的価格賠償を命じる場合の賠償すべき価格を算出する際に担保権で担保された債務額を控除すべきでないとした裁判例があります(京都地裁平成22年3月31日)。
つまり上記の例で言えば代償金は1000万円とすべきことになります。
4.担保付き不動産の共有物分割請求訴訟で競売を命じる判決が出た場合
担保付きの共有不動産について共有物分割請求がされて裁判所から競売を命じる判決が出された場合、この判決が確定した後でさらに執行裁判所に対して競売を命じる判決をもとに不動産競売の申立を行うことができるということは既に述べました。
この共有物分割請求訴訟での競売を命じる判決に基づく競売手続がとられた場合に、不動産についている担保権が抹消されるか(競売代金の中から担保権者に対して優先支払を行う)、担保権付きのままで競売を行うかについて実務上争いがありましたが、最高裁平成24年2月7日の決定で共有物分割請求に基づく競売を命じる判決によって担保権が消滅するということが明らかになりました。
このように共有物分割請求に基づく競売によって担保権が消滅することになると、裁判所が定めた競売の買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額に満たない場合は原則として競売が取り消されることになります(剰余主義といいます)。
競売を申し立てた人に配当がされない競売を続ける意味がないということと担保権者に担保権付き債務が完済されない競売を強制するのは相当でないという理由からです。
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